[Rensa]日ノ瀬和美~二人~ 第三話(全六話)

 数日後、和美は噴火した。
「アンタ、いいかげんにしなよ!」
『……なにが?』
「何か知らないけど、最近は話しかけてもダンマリで、たまに答えれば適当でさ。何が不満なわけ? はっきり言いなよ!」
『わたし、別に……』
「また別にって。それが何の答えなわけ? 文句があるならはっきり言え。言うつもりもないなら、もう、出ていきなよ!」
『!』
「あ……」
 和美が慌てて手で口を塞ぐ。
『ごめんね……』
 あやまるしかできなかった。和美はわたしというお荷物を引き取り、後悔しているのだ。そう、わたしが出て行けば、消えてしまえばいいんだ。
「ちがっ、そんなつもりじゃなくて……!」
 和美は必死に弁解するが、言われなくてもわかっている。わたしのせいで彼女は不機嫌になり、わたしのせいで後悔している。彼女は彼女だけのものなのに、わたしなんかを助けてしまったから。
『本当にごめんなさい。わたし、もう邪魔しないから……』
「ちょっと、勝手に一人で納得すん――!」
 和美が胸を押さえ、倒れた。
『和美……? 和美ぃ!』
 和美は苦しそうに呻くだけで、答えてはくれなかった。
 物音に気付き、お母さんが駆け込んでくる。和美の名を呼び、混乱しながらも救急車を呼ぶ。
 わたしには見ていることしかできなかった。
 この日から和美は寝込んだ。わたしの負を溜め込んだために肉体が変調をきたしたようだ。わたしはさらに落ち込み、消えてしまいたいと望むようになっていた。
 原因不明の入院が一週間ほど続いたものの、身体が慣れてきたのか和美は復調をはじめた。あの男の子がときどきお見舞いに来てくれたのも、和美にはプラスとなったのだろう。
 あの日以来、和美はわたしに謝り続けていたがわたしは耳を塞ぎ続けた。怖かった。和美をおかしくしてしまう自分の存在も、自分の歪んだ心も。何より、優しすぎる和美と真正面から向かい合う勇気がなかった。わたしは臆病だった。
 さらに一週間が過ぎ、和美は学校へ通えるようになった。
 教室へ入り、友達と久しぶりの会話に笑う。和美にとっての平穏な毎日が戻った。
 はずであった。
 誰よりも教室で会うのを楽しみにしていた彼を目の当たりにするまでは。
 彼に寄りそう、クラスメイトの存在がなければ……
「ああ、あの二人、付き合ってるらしいよ」
「へ…へぇ……」
「彼女からコクったらしいんだけど、即オッケーだったってさ」
「そう…なんだ……」
「和美、顔色悪いよ? まだ体調悪い?」
「大丈夫。大丈夫……」
 真っ青な顔で呆然とする和美の奥で、わたしは喜んでいた。そして、激しく自己嫌悪した。サイテイだ。結局わたしは、自分のことしか考えていない。和美が苦しんでいるというのに……!
 心臓が破裂するのではないかと思うほど、大きく跳ねた。わたしにもわかるくらい、強く、高く。
「和美!?」
「ちょ…ちょっと、大丈夫!?」
 周囲が大騒ぎする中で、和美は倒れた。
 胸を押さえ荒い息遣いでのたうつ和美に、わたしはまたも何もしてやれなかった。

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