[Rensa]日ノ瀬和美~二人~ 第二話(全六話)

 それはごくありきたりの思春期の物語から……、男勝りの和美にも好きな人ができたときからはじまる。
 同じクラスの、冗談を交し合う一番仲のいい男友達。他の女子が成績優秀・スポーツ万能の香川くんを追う中で、和美は平凡でありきたりで、でも和美らしい選択をしていた。
 相手もまんざらでもないようで、たがいに意識しはじめているのがわかった。
 でも、わたしはそれがイヤだった。和美がわたしをおいて行くような気がした。不安に襲われていた。
 だけど身体は動かない。和美と彼を離そうとしても、和美は彼に寄っていく。
 心の奥で膝を抱え、耳を塞ぎ、震えることしかできなかった。逃げ場もない。誰よりも近くで二人を見続けなければならなかった。
「どうしたの?」
 ある日、和美が訊いてきた。最近はあまり和美と話もしていない。心配している。
『……別に。大丈夫だよ』
「そう? 何かあるならちゃんと言ってね。あたしたち、一心同体なんだから」
 晴れやかに和美は言う。彼との仲も進展していて、世界がバラ色なんだろう。自分が幸せだからわたしも幸せだと思っているのだろう。
 違う。
 違う、違う、違う!
 わたしは和美じゃない。和美にはなれない。和美の幸福を手放しで喜んであげられない。ずっとわたしといて欲しい。わたしだけ見ていて欲しい――そんなふうに思う自分にも、嫌気がさす。
 その夜、和美は幸せそうな寝顔を浮かべていた。わたしは眠らない。疲れというものを知らないから。今のわたしにとって、それは拷問のようだった。
『これはこれは珍しい』
 不意に声がした。部屋の片隅に、それはいた。
『だれ?』
『わたしなどどうでもよい。キミが陰のほうだね。悩みは尽きないだろう?』
『……』
『そのまま育てばキミたちは必ず崩壊する』
『……!』
『驚くこともあるまい。わかるはずだよ。その肉片にとって、二つの魂は大きすぎる』
 たしかにそうなのかもしれない。今はまだ安定しているが、わたしがワガママを通せば、和美とわたしの心を支えきれず身体に悪影響を与えてしまうだろう。 
 むしろ今日までいっしょにいられたのが奇跡なのだ。
『キミが助かる方法がないわけでもない』
『……え?』
『乗っ取るという選択肢もある。今まで好き放題に生きてきた表のかわりに、キミが外へ出て生きるんだ』
『そんなこと……』
『あくまで選択肢の一つだよ。興味深いな、キミたちは。どのような結末が待っているか、楽しみだ』
 それを最後に声は消えた。部屋の隅にいた黒い影もなくなっていた。
『乗っ取る……? 和美を……? わたしが表に出るために……』
 その誘惑は新鮮で、無視できないものだった。

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